菜種油を鍋に引き入れたところで、一階から伸びる伝声管が高い声を響かせた。 「アデルさん! 紫候が帰ります!」 アデルは前掛けを外すと油で汚れた指をぬぐい、そばの台に置いた。料理人とは客商売である。客は別に料理人の言葉を求めてはいないが、感謝と…

彼は神であり、生まれたばかりの神であり、そして今日明日にも滅びようとしている神だった。 飢餓のために朦朧としている視界とひきかえに、嗅覚だけが鋭敏に研ぎ澄まされている。その鼻は、自分の口元に突きつけられているかぐわしい食物のほかに、すぐ傍ら…

モン島は、すこし欠けた半月を思わせる起伏のある小さな島で、六百人ほどの人間が暮らしている。大小百あまりある浪月の群島のはずれに位置しており、あまり栄えているとはいえない。 港は湾曲する半月の内側にあり、港をみはるかすように大人ふたり分ほどの…

2011/01/31

商業出版というものに少しからんでみたことによる一番の弊害は、人が面白いと思うものを書かなければならないと思い込んだことかもしれません。いや商業だったらそれは当然なのですが、和風Wizの頃からどうして他の人が面白いと思うのか理解不能だった私には…